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「くもりガラスの夏」 わったん |
Date: 2004-03-11 (Thu) |
ゴオンゴオンゴオン…
「あ〜あ。何やってんだろ。俺。
来年は新しい洗濯機に変えよう」
近所迷惑なほどうるさい洗濯機をぼんやり眺めていた。
自分でもわかるほどの面倒くさがり屋。
「面倒くさいし、また今度にしよう」が口癖で、
今言った言葉でさえ、来年新しい洗濯機が家にある
イメージさえもわかない。
そんな僕でも一つだけは、面倒くさくなかった。
今年の夏は去年よりもずいぶん暑い。
会社仲間と海へ行って、やけどするほど思いっきり焼いたから
薄皮だらけのベッドのシーツを洗うはめになった。
しかもはがすのがヘタで全身まだら模様になっている。
ヒョウか僕は。シーツに向かって小さい声で僕と洗濯機は
声までヒョウのようにうなっていた。
教えてくれよ。僕は恋を間違っていたのかい?
彼女とはうまくやっていってると思っていた。
雑誌の特集になったデートコースは必ず行ったし、彼女が
見たい映画だって、僕の趣味とは違っていても退屈な顔一つ
見せずにこれたんだ。なのに…。
トースターが勢いよくパンを跳ね上げた。僕はその音で
心もグルグル回っている催眠状態から冷めた。
日曜だというのに もうどこにも行く必要はなく、昼を過ぎてから
朝食のメニューを食べる。やっぱり情けないよな。
昨日からつけっぱなしで寝てしまったラジオから、大好きだった
歌が流れ出した。あぁ。今の僕にない肝心なことを歌っている
じゃないか。この歳になってまたこの歌に助けられるなんて
思ってもいなかった。
僕は結局熱烈な片想いだったってことを
誰かを引き止めておく方法は…。違う”引き止め続ける”ことが
恋愛じゃない。いつも笑顔に負けていたから、君が何処かに
行ってしまうことがとても恐かった。愛しかった。そして
僕は情けない男になっていった。
このボロボロの皮膚が完全にはがれる頃にはやっと笑える
ようになるだろう。「そういやそんなことあったっけ?」って。
この部屋のくもりガラスの向こうに見える夏はあっという間に
過ぎていく。僕らの夏は眼鏡越しに見える客観的な存在ではなく、
確かに一つずつ歳をとっていく僕の、無意味ではない夏だった。
恋愛の難しさを教えてくれた君に感謝する。ただいつか君が
「そんなことあったわね」と誰かと笑うときは、どうか
洗濯機を眺めている姿だけは勘弁してほしい。
僕は君がくやしがるほどのいい男になってみせるから。
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